僕が手掛けたOEM商品は、狙い通りヒットした。お客様の声を反映した改良点が評価され、高評価レビューが次々と付いていく。価格競争は起こらず、安定した利益が生まれるようになった。そして、副業を始めてから約1年半が経った頃、ついに物販事業の月商が100万円を突破。副業の収入が、本業の給料を大きく上回った。
僕は、妻に「会社を、辞めようと思う」と告げた。彼女は、僕が悩み抜いてきた姿をずっと見ていたからだろう。「あなたの人生だもの。信じてるわ」と静かに背中を押してくれた。
こうして僕は、長年勤めた会社に辞表を提出した。しかし、開放感とともに、会社という大きな盾を失ったことの重圧がのしかかってくる。個人事業主になるということは、すべての責任を自分で負うということだ。
その重みを最初に痛感したのは「製造物責任法(PL法)」の存在を知った時だった。輸入品に欠陥があり、それによって購入者が損害を被った場合、製造者だけでなく、輸入・販売した者も責任を問われるという。万が一に備え、僕は急いでPL保険に加入した。
そして、最大の壁は人生初の「確定申告」だった。仕入れ代金、海外への送金手数料、広告費…。何が経費になり、何がならないのか。家賃や光熱費の一部を経費にする「家事按分」という考え方。複雑な帳簿付けに頭を悩ませ、税理士に相談しながら、なんとか申告書を完成させた。
税務署で納税を終えたとき、僕は自分が「会社員」ではなく、社会に対して直接責任を負う一人の「事業者」になったのだと、身をもって実感した。
■解説:事業者として知っておくべき法律と税金
脱サラはゴールではありません。事業を続ける上で、以下の知識は必須です。
- 製造物責任法(PL法):
輸入者には、商品の安全性に対する重い責任があります。特に、子供向け商品、ベビー用品、肌に触れるもの、家電などを扱う場合は、PL保険への加入を強く推奨します。 - 確定申告:
副業所得が年間20万円を超えたら確定申告が必要です。物販の所得は「事業所得」(または雑所得)として申告します。青色申告をすれば、最大65万円の特別控除など大きな節税メリットがあります。日々の売上や経費を記録する「帳簿付け」が必須です。 - 経費にできるもの:
仕入れ代金、送料、各種手数料はもちろん、PC代、情報収集のための書籍代、打ち合わせの飲食代、自宅兼事務所の家賃・光熱費の一部(家事按分)など、事業に関わる支出は経費として計上できます。 - 特定商取引法に基づく表記:
ネットショップ運営では、販売者の氏名、住所、電話番号の表示が義務付けられています。自宅の住所を公開したくない場合は、月額数千円で住所や電話番号をレンタルできる「バーチャルオフィス」の利用が一般的です。





